データサイエンティストの基本を仕事の流れからつかむ|1日の業務・必要な3つの力・似た職種との違い
- 最終更新日:2026/10/16
データサイエンティストという言葉はよく聞くものの、実際に毎日何をしているのか、データアナリストや機械学習エンジニアと何が違うのかは、外からは見えにくいものです。データサイエンティストの基本をひとことで表すなら、統計や機械学習を使ってデータから予測や判断の根拠をつくり、事業の意思決定や仕組みそのものを変えていく仕事です。この記事では、ひとつのプロジェクトの流れと1日の過ごし方を追いながら、仕事の中身、求められる力、使う道具、公的データから見た職業の特徴、似た職種との境界を順に整理します。
データサイエンティストの基本はモデルで判断を変えること
企業には、売上、在庫、顧客の購買履歴、アプリの操作ログ、センサーの計測値など、大量のデータが蓄積されています。データサイエンティストは、こうしたデータに統計学や機械学習の手法を当てはめ、「来週この商品はどれくらい売れるか」「どの顧客が解約しそうか」「どの価格にすれば利益が出やすいか」といった問いに、数理モデルで答えを出します。
過去の数字を集計して現状を説明するところまでで終わらず、将来を予測したり、望ましい選択肢を計算したりして、その結果を業務の仕組みに組み込むところまで関わる点が特徴です。たとえば需要予測モデルを発注システムに組み込めば、担当者の勘に頼っていた発注量が、毎日自動で提案されるようになります。職種としての全体像はデータサイエンティストとはどんな仕事かを解説した記事でも紹介しています。
需要予測プロジェクトで追う仕事の流れ
仕事の全体像をつかむために、スーパーマーケットのチェーンで「惣菜の廃棄を減らしたい」という依頼を受けたモデルケースで流れを見てみます。
課題を予測できる問いに置き換える
最初に行うのは、依頼の中身を分析できる形に翻訳することです。「廃棄を減らしたい」をそのまま扱うことはできないため、店舗の担当者と話し、「店舗ごと・商品ごとに翌日の販売数を予測し、作る量を決める」という問いに落とし込みます。あわせて、予測が外れたときに欠品と廃棄のどちらのほうが損失が大きいかも確認しておきます。ここを曖昧にしたまま進めると、精度の高いモデルを作っても現場で使われない結果になりがちです。
データを集めて整える作業に多くの時間を使う
次に、POSデータ、天気、曜日、近隣のイベント、チラシの掲載日などを集め、SQLで抽出してPythonで加工します。欠損している日付、店舗の改装で売上がゼロになっている期間、商品コードの変更など、実データには分析の前に処理すべき問題が数多くあります。プロジェクトによっては、こうした前処理が作業時間の多くを占めることもあります。
モデルを作り、業務の指標で評価する
整えたデータを使って、過去の販売数を学習した予測モデルを作ります。勾配ブースティングなどの機械学習手法や、季節性を扱う時系列モデルを比較し、予測誤差を確かめます。ただし評価で大切なのは、誤差の数字だけでなく、そのモデルで発注した場合に廃棄と欠品がどれだけ変わるかという業務上の効果です。統計的な精度と現場の損得を結びつけて説明できるかどうかが、データサイエンティストの腕の見せどころです。
現場に組み込み、効果を検証し続ける
モデルが完成したら、エンジニアと協力して毎朝の発注画面に予測値が表示されるようにします。導入後は、一部の店舗だけで先に運用して導入していない店舗と比べる、といった方法で効果を検証します。季節や販売戦略が変わると予測が外れやすくなるため、精度の監視とモデルの再学習も継続的な仕事になります。業務の種類ごとの違いはデータサイエンティストの仕事内容で詳しく紹介しています。
ある日のスケジュールの例
事業会社の分析チームに所属するデータサイエンティストの1日を、典型的な例として示します。会議の多さや開発の比重は、会社やプロジェクトの段階によって大きく変わります。
| 時間帯 | 主な作業 |
|---|---|
| 9時台 | 運用中モデルの精度ダッシュボードを確認し、異常がないかを見る |
| 10時台 | マーケティング部門と打ち合わせ、新しい施策の分析設計を相談 |
| 11時から15時 | Jupyter Notebookで特徴量を作り、モデルの比較実験を行う |
| 15時台 | チーム内でコードレビューを行い、実験結果を共有 |
| 16時以降 | 事業責任者向けの報告資料を作成し、結果と限界を言葉で整理する |
このように、パソコンに向かって手を動かす時間と同じくらい、関係者と話し、結果を伝える時間があります。黙々と数式を解く仕事というイメージとは少し異なるかもしれません。
データサイエンティストに求められる力
一般社団法人データサイエンティスト協会は、データサイエンティスト スキルチェックリストの中で、データサイエンティストに必要な力を「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」の3つに整理しています。3つすべてを高い水準で持つ人は多くないため、チームの中で得意分野を分担しながら働くのが一般的です。どの力を軸にするかで任される業務の幅が変わり、その差はデータサイエンティストの年収の分かれ目にも表れやすくなります。
ビジネス力は課題を見つけ、結果を使える形にする力
依頼者の業務を理解し、分析で解くべき問いを定め、結果を意思決定に結びつける力です。先ほどの需要予測でいえば、欠品と廃棄の損失を比べる視点や、店舗の担当者が使いやすい形で予測値を届ける工夫がこれにあたります。
データサイエンス力は統計と機械学習を正しく使う力
確率・統計、線形代数、機械学習の理論を理解し、データに合った手法を選んで、結果の妥当性を判断する力です。高度な数学の証明ができる必要はありませんが、モデルが過去のデータに合わせすぎていないか、相関を因果と取り違えていないかといった落とし穴を見抜ける程度の理解が求められます。
データエンジニアリング力はデータを扱える状態にする力
SQLで必要なデータを抽出し、Pythonで加工し、クラウド環境で大量のデータを処理したりモデルを動かしたりする力です。どれほど優れた手法を知っていても、データを取り出して整えられなければ分析は始まりません。
スキルの段階を知っておく
同じスキルチェックリストでは、スキルの水準を4つの段階で示しています。自分が今どの段階にいて、次に何を目指すかを考える目安になります。
| 段階 | スキルチェックリストでの位置づけ |
|---|---|
| 見習いレベル | データサイエンス力でいえば、統計数理や線形代数、微分積分の基礎知識を持つ段階 |
| 独り立ちレベル | 基礎的な分析活動を自律的に行える段階 |
| 棟梁レベル | 予測、グルーピング、機械学習、深層学習などの応用的なスキルを持つ段階 |
| 業界代表レベル | 既存の手法の限界を打ち破るような取り組みができる段階 |
見習いレベルの範囲を確かめる試験として、同協会のデータサイエンティスト検定 リテラシーレベル(DS検定)があり、受験資格は設けられていません。そのほかの資格はデータサイエンティストに役立つ資格で紹介しています。
仕事で使う主な道具
職場によって違いはありますが、データサイエンティストがよく使う道具は次のとおりです。
| 用途 | 代表的な道具 |
|---|---|
| プログラミング言語 | Python、R |
| データ抽出 | SQL |
| 分析環境 | Jupyter Notebook、VS Code |
| 機械学習ライブラリ | scikit-learn、LightGBM、PyTorch |
| クラウドのデータ基盤 | BigQuery、Amazon Web Services、Microsoft Azure |
| コード管理 | Git |
近年は、生成AIを使ったコードの下書きや、文章データの分類・要約にLLM(大規模言語モデル)を組み込む案件も見られます。道具は入れ替わっても、どの問いにどの手法を当てるかを判断する部分は人が担うため、特定のツールに詳しいことより、手法の前提を理解していることのほうが長く役立ちます。生成AIとの付き合い方はデータサイエンティストのAI活用で紹介しています。
公的データで見るデータサイエンティストの基本情報
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)には、データサイエンティストの職業情報が掲載されています。この職業に就く人の経歴や求められる力について、次のような特徴が示されています。
| 項目 | job tagに掲載されている内容 |
|---|---|
| 学歴の傾向 | 大学院で統計学、数学、情報工学などを専攻した人が多い |
| 新卒での入職先 | 大手のIT企業、製造業、サービス業など |
| 中途での入職 | 情報処理技術者、マーケティング・リサーチャー、製造業の研究者などからの転身があり、博士号取得者が転身するケースもある |
| 求められる力 | ITやデータ解析、ビジネスの知識に加え、コミュニケーション力や発想力 |
| 資格 | 就くために必須の関連資格はない |
| 賃金と年齢 | 全国の賃金(年収)は611.9万円、平均年齢は43.9歳と掲載されている |
大学院出身者が多い一方で、ほかの職種から転身する道もあることが分かります。年収は統計上の平均値で、経験や企業によって幅があります。
似た職種との境界線
データを扱う職種は名前が似ていて混同されやすいため、主な役割の違いを整理しておきます。実際には企業ごとに範囲が重なり合っており、1人が複数の役割を兼ねることもあります。
| 職種 | 主な役割 | 中心となる成果物 |
|---|---|---|
| データサイエンティスト | 統計・機械学習で予測や最適化のモデルを作り、意思決定に活かす | 予測モデル、検証結果、提言 |
| データアナリスト | 集計や可視化で現状と要因を明らかにする | 分析レポート、ダッシュボード |
| 機械学習エンジニア | モデルを本番のシステムで安定して動かす | 推論の仕組み、運用基盤 |
| データエンジニア | データを集め、蓄え、使える形に整える | データ基盤、データの流れ |
小さな会社では、データサイエンティストが集計からシステムへの組み込みまで一手に担うこともあれば、大企業では研究寄りの役割に特化している場合もあります。求人を見るときは、職種名よりも業務内容の欄で、どの範囲を任されるのかを確かめておきましょう。最初に担当した範囲からどの方向へ専門性を広げていけるかは、経験年数に応じたキャリアの分岐で詳しく扱っています。
イメージと実態がずれやすいところ
データサイエンティストは、ニュースや広告の影響で実態とは違うイメージを持たれやすい職種です。基本を押さえるうえで知っておきたいずれを整理します。
最先端のAIを毎日作っているわけではない
ニュースで話題になるような最新のAIモデルを開発する仕事は、研究機関や一部の大企業に限られます。多くの現場では、ロジスティック回帰や決定木のような説明しやすい手法が好まれることも多く、「なぜその予測になったのか」を説明できることが重視されます。
精度が高くても使われなければ成果にならない
予測精度を数パーセント改善するために何週間も費やしても、現場の業務が変わらなければ事業への効果は生まれません。どこまで精度を追うかを、効果と手間のバランスで判断することも仕事の一部です。
数学が得意でなければ務まらないとは限らない
統計や線形代数の基礎は必要ですが、現場で求められるのは、手法の前提と限界を理解して正しく使う力です。文系出身でも、業界知識やビジネス力を強みにして活躍している人はいます。ただし、学び直しの負担は小さくないため、自分に合うかは早めに試して確かめるのが現実的です。
基本を押さえたら、自分の位置を確かめる
ここまでの内容で興味が湧いた人は、目指すまでの具体的な道のりをデータサイエンティストになるための学習と経験の積み方で確認できます。
3つの力のうち、今の自分にいちばん近いものはどれでしょうか。営業や企画の経験がある人はビジネス力、理系の研究経験がある人はデータサイエンス力、エンジニア経験がある人はデータエンジニアリング力が出発点になります。出発点が分かれば、残りの2つをどの順で伸ばすかという、自分専用の学習計画を描けるようになります。学ぶ順番や教材の選び方はデータサイエンティストの勉強方法を参考にしてください。
