データサイエンティストとは何をする人か|身近なサービスの裏側から見る役割と3つのタイプ
- 最終更新日:2026/10/13
通販サイトで表示される「この商品を買った人はこんな商品も見ています」という一覧や、コンビニの棚に翌日分のおにぎりが過不足なく並ぶ仕組みの裏側には、データをもとに判断の根拠を作る専門職がいます。それがデータサイエンティストです。
データサイエンティストとは何をする人なのか、言葉は聞いたことがあっても説明しにくいと感じる人は多いはずです。この記事では、身近なサービスの裏側にある仕事の場面から職種の輪郭をつかみ、言葉が広まった背景、働き方のタイプ、できることとできないことまでを順に整理します。
データサイエンティストとは、データから判断の根拠を作る専門職
データサイエンティストとは、企業や組織に蓄積されたデータを統計学や機械学習の手法で分析し、「次に何をすべきか」という判断の根拠を作る専門職です。単にグラフや集計表を作るだけでなく、将来の需要を予測したり、顧客が離れていく兆候を見つけたり、施策に本当に効果があったかを検証したりして、意思決定そのものを変えることを目指します。
ポイントは、分析が目的ではなく手段だという点です。たとえば「来月の売上を予測する」という仕事でも、その予測が仕入れ量の決定に使われ、廃棄や欠品が減って初めて価値が生まれます。データサイエンティストは、データと事業の現場をつなぐ通訳のような役割を担っているとも言えます。
身近なサービスの裏側にある仕事の場面
データサイエンティストの仕事は、業界ごとに扱うデータも解く問題も大きく異なります。普段の生活で触れているサービスを例に、どんな場面で働いているのかを見ていきましょう。
小売やECでは売れ方を予測して在庫を決める
スーパーやコンビニでは、過去の販売実績に天気、曜日、近隣のイベントなどの情報を組み合わせて、商品ごとの翌日の販売数を予測します。予測が外れると、余れば廃棄、足りなければ販売機会の損失につながるため、精度の数パーセントの改善が大きな金額の差になります。ECサイトでは、閲覧や購入の履歴から一人ひとりに合った商品を表示するレコメンドの仕組みづくりも代表的な仕事です。
金融では貸し倒れや不正を見抜く
クレジットカード会社や銀行では、申込者の属性や取引履歴から返済が滞るリスクを数値化する与信モデルを作ります。また、普段と異なる場所や金額での決済を検知して不正利用を止める仕組みにも、データ分析が使われています。金融の分野では、なぜその判定になったのかを説明できることが法令や社内規程の面からも求められるため、精度と説明しやすさのバランスを取る判断が重要です。
製造業では故障の予兆をつかむ
工場の設備に取り付けたセンサーから振動や温度のデータを集め、故障が起きる前の小さな変化を捉える予知保全も、データサイエンティストが関わる領域です。故障してから修理するよりも、兆候の段階で部品を交換するほうが生産ラインの停止時間を短くできます。
Webサービスでは施策の効果を検証する
アプリのボタンの色や配置を変えたとき、利用者の行動が本当に変わったのかを確かめるために、利用者を2つのグループに分けて比較するA/Bテストを設計し、結果を統計的に評価します。偶然の差なのか意味のある差なのかを見極めることは、データサイエンティストの基本的な仕事のひとつです。
データサイエンティストという言葉が広まった背景
データサイエンティストという職種名が広く知られるようになったのは、2010年代に入ってからです。2012年に米国のビジネス誌ハーバード・ビジネス・レビューで「21世紀で最もセクシーな職業」と紹介されたことが、注目を集めるきっかけのひとつになりました。
背景には、インターネットやスマートフォンの普及によって、企業が扱えるデータの量が急増したことがあります。データを保存するだけでなく、そこから価値を引き出せる人材が求められるようになりました。日本でも2013年に一般社団法人データサイエンティスト協会が設立され、必要なスキルを「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」の3つに整理しています。この3つの力が実務でどう使われるかは、データサイエンティストの基本を仕事の流れから解説した記事で具体的に紹介しています。
その後、大学でのデータサイエンス教育の拡充や、生成AIの登場もあって、データを扱える人材への関心は現在も続いています。一方で、AIが分析作業の一部を担うようになったことで、データサイエンティストに求められる役割は、手法を使いこなすことから、どの問いに取り組むべきかを決めることへと比重が移りつつあります。分析業務でのAIの使い方については、データサイエンティストのAI活用の実際で詳しく扱っています。
働き方で分かれる3つのタイプ
同じデータサイエンティストという肩書きでも、所属する組織や担当範囲によって仕事の中身はかなり違います。求人票を読むときにも、どのタイプに当たるかを意識すると理解しやすくなります。
ビジネス寄りのタイプ
事業部門やマーケティング部門と近い距離で働き、売上や顧客の行動を分析して施策を提案するタイプです。高度なモデルを作るよりも、問いの設定や結果の説明に多くの時間を使います。事業会社やコンサルティングファームに多く、ビジネスの知識や説明する力が重視されます。
エンジニア寄りのタイプ
作ったモデルを実際のシステムに組み込み、毎日自動で予測を出し続ける仕組みを作るタイプです。データ基盤やクラウド環境の知識が求められ、機械学習エンジニアと呼ばれる職種と重なる部分もあります。Webサービス企業やIT企業に多く見られます。
研究寄りのタイプ
画像認識や自然言語処理など、特定の分野で新しい手法を開発したり、論文の手法を自社のデータで検証したりするタイプです。大手メーカーの研究所やAI開発企業に多く、大学院で研究経験を積んだ人が中心になります。
似た職種とどこが違うのか
データサイエンティストと混同されやすい職種に、データアナリストとデータエンジニアがあります。大まかには、データアナリストは集計や可視化を通じて現状を明らかにすることに重点を置き、データエンジニアは分析に使うデータを集めて保管する基盤を作ることに重点を置きます。データサイエンティストは、その両方にまたがりながら、予測や最適化といった統計・機械学習の手法で将来の判断を支える点に特徴があります。
ただし、会社によって職種名の使い方はまちまちで、実際にはデータアナリストの肩書きで予測モデルを作っている人もいます。アナリスト側の仕事の範囲を確かめたい場合は、データアナリストという職種の定義と役割を読み比べると境界がつかみやすくなります。
データサイエンティストにできることと、できないこと
データサイエンティストは万能の存在として語られることもありますが、できることには条件があります。過度な期待もその反対の過小評価も避けるために、両面を押さえておきましょう。
過去のデータから傾向を見つけ、将来を予測する
十分な量と質のデータがあれば、売上や需要、顧客の解約といった数値の傾向をつかみ、一定の精度で将来を予測できます。また、多数の要因のなかから結果に影響していそうなものを絞り込むことも得意分野です。
データが存在しない問いには答えられない
新しく始める事業や、これまで記録してこなかった顧客の行動については、分析の材料がそもそもありません。この場合は、まずデータを集める仕組みを作るところから始める必要があり、すぐに答えが出るわけではありません。
相関から因果を断定することはできない
「アイスの売上が伸びた日は水難事故も多い」というデータがあっても、アイスが事故を引き起こしているわけではなく、気温という共通の要因があるだけです。データサイエンティストは、こうした見かけ上の関係に惑わされないよう、実験の設計や統計的な手法で因果関係を慎重に検証します。それでも断定できない場面は多く、結論の確からしさを正直に伝えることも仕事の一部です。
最終的な判断を代わりに下すわけではない
分析結果は判断の根拠であり、どの施策を実行するかを決めるのは事業の責任者です。データサイエンティストは、選択肢ごとの見込みやリスクを示し、判断する人が納得して決められる材料を整える立場にあります。
この職種を知った人がそれぞれ確かめたいこと
データサイエンティストとは何かを知りたい理由は、人によって異なるはずです。立場ごとに、次に確かめておくとよい点を整理しておきます。
将来の仕事として興味を持った学生や社会人であれば、統計やプログラミングに抵抗がないかに加えて、地道なデータの整理を続けられるかを考えてみることが大切です。実際の業務時間の多くはデータを整える作業に使われるため、華やかなイメージとの差に戸惑う人もいます。目指す場合の具体的な道筋はデータサイエンティストになるためのロードマップで、待遇面は経験別の年収の目安で確認できます。
自社でデータサイエンティストの採用や外部への依頼を検討している企業の担当者であれば、解きたい課題と使えるデータが揃っているかを先に確認しておくと、採用後や発注後のミスマッチを防げます。「AIで何かできないか」という漠然とした依頼では、優秀な人材でも成果を出しにくいのが実情です。
データサイエンティストは、データという材料と、事業の判断という出口のあいだに立つ仕事です。どの業界で、どのタイプとして関わりたいのかを思い描けると、この職種が自分にとってどんな意味を持つのかが見えてきます。
